「詳しく書いたのに、なぜ誰も反応してくれないんだろう?」
「今日は渾身の投稿を書いた。技術的な背景もちゃんと説明した。専門用語も正確に使った。これは絶対に刺さるはずだ」
……でも、いいねは数件。コメントもゼロ。静かに流れていく。
技術力の高い人ほど陥りやすい、典型的な落とし穴だと感じている。「詳しく書いた」と「伝わった」はまったく別のことだ。
専門的な投稿が伸びない、本当の理由
例えば、岐阜県関市の職人さんがこんな投稿をしたとしよう。
「本日は#63鋼を使用したサブゼロ処理後の焼き戻し工程を実施。HRC硬度60以上を安定して出すための温度管理が肝です」
技術者には価値のある情報だ。でも、包丁を買いたいと思っている一般の人がこれを読んで感じるのはただ一つ——「……なんか難しいことしてるんだな」
SNSのタイムラインに流れてくる投稿を、人はほんの一瞬で「読むか・読まないか」を判断する。「これは私には関係ない話だ」と感じたら、もう読まれない。
専門的な投稿が伸びないのは、内容が悪いのではない。読者と発信者の間に「言語のギャップ」があるからだ。
方法①:「知らない人に説明する」視点を持つ
私がよく使うのは「小学生に話すように書く」という基準。難しい言葉を使わず、知識がゼロの人でも「ああ、そういうことか」と思えるように言い換えてみる。
先ほどの投稿を書き直してみよう。
「包丁を作るとき、刃を強くするために金属を一度ものすごく冷やして、それからゆっくり温め直すという工程があります。これをやることで、切れ味が長持ちする刃ができるんです」
読んだ人は「ふーん、そんな手間をかけてるんだ」と感じてくれる。そして次の投稿も読みたくなる。
専門用語を使わないのは「レベルを下げること」ではない。読み手に合わせて「翻訳する」ことだ。その翻訳ができる人が、SNSで強い。
方法②:専門知識を「日常の体験」に置き換える
人は知らないことを理解するとき、必ず「知っていること」に置き換えようとする。だから、読み手がすでに知っている日常の体験に結びつけることで、難しい概念がスッと頭に入るようになる。
刃物の「焼き入れ」をこう説明してみる。
「金属の焼き入れって、チョコレートのテンパリングに似ているんです。一度溶かして、温度を細かくコントロールしながら冷やすことで、ツヤが出て口どけが良くなる。金属も同じで、温度管理ひとつで硬さやしなやかさが変わってくるんです」
チョコレートのテンパリングを知っている人なら、一気にイメージが湧くはずだ。読んだ人は「この人、わかりやすく教えてくれる」と感じて、信頼感が上がる。専門知識と親しみやすさは、両立できる。
方法③:「なぜ知っておくと得か」から入る
多くの専門的な投稿は「何をしたか」「どういう技術か」から始まる。でも読者が本当に知りたいのは「それが自分にとって何の役に立つのか」だ。
Before(技術から入る):
「本日は刃付け工程において、荒砥から仕上げ砥まで5段階の研磨を実施しました」
After(ベネフィットから入る):
「『なんで高い包丁はこんなに切れるんだろう?』その答えは、研ぎの工程にあります。実は5段階に分けて少しずつ刃を整えることで、あの信じられない切れ味が生まれているんです」
この「発見の快感」こそが、シェアやコメントにつながるエネルギーになる。「なぜ知っておくと得か」を自分に問いかけてから書き始める習慣をつけると、投稿の反応は確実に変わっていく。
結論:専門性の高さは「翻訳力」があって初めて価値になる
技術がある。知識がある。経験がある。それだけでは、SNSでは伝わらない。
専門性というのは、「翻訳力」とセットになって初めて武器になる。深い専門性と現場のリアルを持っている人ほど、翻訳さえできれば圧倒的に強いコンテンツが作れる。
「知らない人に説明する」視点を持つ。日常の体験に置き換える。読み手のベネフィットを先に出す。
この3つを意識するだけで、あなたの投稿は「専門家しかわからない話」から「誰かに教えたくなる話」に変わる。あなたの技術は、もっと多くの人に届けられるはずだ。


コメント