イン・ザ・メガチャーチから読み解く 人を魅せるのに、なぜ「ストーリー」が必要なのか?

SNSの考え方

*(注意)一部、ネタバレを含みます!

ある小説の衝撃的な一行が、すべてを教えてくれた

先日、2026年本屋大賞を受賞した朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』(日本経済新聞出版)を読んだ。(実は、同じ岐阜県出身で親近感が沸く!)

読み終えた瞬間、しばらく本を閉じたまま動けなかった。

この小説は、3人の視点から描かれる群像劇だ。アイドルグループの「物語」を設計するレコード会社のサラリーマン・久保田(47歳)。推し活を通じて初めて居場所を見つける内向的な女子大生・武藤澄香(19歳)。そして、推していた舞台俳優の急逝をきっかけに陰謀論へと
取り込まれていく派遣社員・隅川絢子(35歳)。

「仕掛ける側」「沼る側」「かつてのめり込んでいた側」。

この3つの視点を重ね合わせることで、物語が暴く真実がある。そしてその核心を突くセリフが、このひと言だった。

「神がいないこの国で人を操るには、物語を使うのが一番」

読んだとき、背筋が冷たくなった。と同時に、これは小説の中だけの話ではないと直感した。


なぜ人は「物語」に動かされるのか

久保田は、アイドルグループの運営として「物語」を意図的に設計する。メンバーの関係性、成長の軌跡、ファンとの絆——これらはすべて計算された「文脈」だ。

そしてその物語に引き込まれた澄香は、気づけばライブに通い、グッズを買い、ファン同士のコミュニティに深く根を張っていく。孤独だった彼女が「居場所」を手に入れたのは、アイドルというコンテンツではなく、「自分もその物語の一部だ」という感覚を持てたからだ。

これが、物語の本質的な力だ。

人間の脳は、事実よりも物語の方を圧倒的に処理しやすい。数字や機能の羅列は右から左へ流れるが、「誰かの葛藤と成長の話」は記憶に刻まれ、感情を動かし、行動を促す。

共同体への帰属感、儀式的な参加(ライブ・投票)、献身と課金——これらすべてが一体となって回転するとき、人は「ファン」から「信者」になる。著者・朝井リョウはこの構造を「メガチャーチ(巨大教会)」と呼んだ。


SNSは、まったく同じ構造で動いている

「でも、それはエンタメの話でしょう?」

そう思ったあなたに問いたい。今フォローしているアカウントを思い浮かべてほしい。なぜそのアカウントをフォローし続けているのか。

商品の機能を説明しているから? いや、違うはずだ。

その人の日常が見えるから。考え方に共感するから。応援したくなるから。「この人の物語の続きが見たい」——そういう感覚があるはずだ。

SNSでのフォローは、推し活と構造的に同じだ。フォロワーは「あなたの物語」に参加している。コメントやいいねは、物語への「参加の儀式」だ。

アルゴリズムがどれだけ変わっても、人が人に惹かれる本能は変わらない。人は情報を追いかけているのではなく、物語を追いかけている。


中小企業の社長こそ、最強のストーリーを持っている

ここで私がSNSコンサルタントとして断言したいことがある。

中小企業の社長は、大企業が絶対に持てない「物語」を持っている。

大企業のSNSは、どうしてもブランドの声になる。洗練されていて、整っていて、そして——どこか遠い。

でも、地域の製造業を20年守ってきた社長の話は違う。
・職人を引き留めるために給料より先に自分の役員報酬を削った話。
・後継者がいなくて夜中に一人で悩んだ話。それでも「この技術だけは絶やしたくない」と踏ん張り続けた話。

これは物語だ。誰も真似できないオリジナルの物語だ。

久保田がアイドルのために「物語」を設計しなければならなかったのは、最初から物語がなかったからだ。でもあなたには、すでにある。
磨かれていないだけで、届けられていないだけで。


SNSは、その物語を届ける「最適な場所」だ

テレビCMは一方通行だ。チラシは捨てられる。ホームページは検索されなければ存在しない。

でもSNSは違う。

投稿に「いいね」が押される。コメントで会話が生まれる。シェアされて、知らない誰かに届く。フォロワーが増えるたびに、あなたの物
語の「読者」が増えていく。

そして最も重要なのが継続性だ。物語は一話完結ではない。続きがあるから人は追いかける。毎日・毎週、あなたの今を発信し続けること
で、フォロワーはあなたの物語の「続きを知っている人」になる。それは単なる顧客や求職者ではなく、あなたの「ファン」だ。

そのファンが、口コミを広げ、応募し、発注し、紹介してくれる。


結論:SNS運用は「物語を語り続ける仕組み」への投資だ

『イン・ザ・メガチャーチ』が描いたのは、物語の光と闇の両面だった。澄香は物語に救われ、絢子は物語に飲み込まれた。物語は人を動かす最強の力だが、使い方を誤れば視野を狭め、現実を歪める。

でも同時に、この小説は教えてくれた。人は物語なしには動かない、という動かしがたい事実を。

あなたの会社の物語は、誰かを救う力を持っている。あなたの理念に共感して仕事に意味を見出してくれる職人が現れるかもしれない。あなたの誠実さに惚れて、長年付き合える顧客になってくれるかもしれない。

でも、語られなければ存在しないのと同じだ。

SNS運用とは、広告を打つことでも、バズを狙うことでもない。あなたの物語を、必要としている誰かに届け続けるための仕組みを作ることだ。

神がいないこの国で人を動かすのが物語なら——あなたの物語を、今すぐSNSで語り始めてほしい。

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